規矩術(伝統建築の場合)


2011年8月27日

この歳で初めて知った言葉です。「きくじゅつ」と読みます。
規矩準縄術というのが語源だとされ、規は円、矩は方形、準は水平、
縄は垂直を意味します。
日本の美しい木組みでできた建築物を、「さしがね」という
L字型の金属性のものさし1本で、複雑な角度は、もちろん、屋根のたわみ
のカーブなどすべてを作図してしまいます。日本の伝統的な木造建築の技法です。

O棟梁です

人工物と違って、木造建築の素材である木はそれぞれが
微妙に異なります。それを立体的に、認識し、かつきちんと納めることが
できる・・まるで3DのCADが「さしがね」という道具を
通して大工さんの頭の中にできあがるようなものです。
日本の木造文化の中ではぐくまれた貴重な特別な技術です。
もう1ヶ月近くになりますが、友人のIさんからその「規矩術」で
家を建てておられる和歌山県の有田郡にある大前工務店の

大前さん(以下O棟梁とお呼びします)施工による、S邸のお披露目に
お声をかけてもらいました。Iさんご自身も、ご家族も含めて
長年建築関係のお仕事をされていましたが、ここ最近はずっと、
O棟梁とご一緒にお仕事をしています。
拝見して圧倒されました。でも、S邸はモダン建築なので、本来の伝統技術での
建築の様子を後日画像で送って下さいました。Iさんのデータは実に2ギガ近く
あり、とても貴重な記録でした。実際にO棟梁に伺った話も混ぜながら
『百聞は一見にしかず』です。日本の伝統的な工法をご覧下さい。
(一部を除いて画像はクリックで拡大します)
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まずは材木の買い付けから始まります。適材適所の言葉どおり、
樹木の種類や、癖も考慮した上で、色合いや模様、
さらに、コストも考えながらの買い付けになるそうです。

樹木の名残はどんどん消えて材となっていきます。


大掛かりな機械からノミを使っての加工までお弟子さんたちも、O棟梁の陣頭指揮の下で行います.
社会科の教科書の発掘遺跡を思わせる基礎石です。

現代の基準で定められた以外に釘は使わず、柱を乗せるだけの構造だと
聞いて驚きです。地震で大きなゆれがきたときに、構造物が石から外れて落ちるだけで
ばらばらにならない特性を持ちます。
基礎の石に柱を建て棟を上げます。
納まるところにすべての材が無駄なく納まっていきます。
通常の住宅建築と異なり、伝統的な技法では、1本1本のパーツを
事前に加工した、凹凸の部分を慎重にしっかり組み合わせていきます。

要所要所に伝統の技が生きます。

上の左画像の三角形のものは「隅木」と呼ばれるものです。「規矩術」の腕が試されます。その上の屋根の丸みのための材の加工は、瓦を乗せたときにもふっくらとした
ラインが出るのが特徴です。
壁は竹取の婦人?(友人のIさんです)も、伐採したものを裂いて
編んでいきます。Iさん曰く、専門の業者もおられるが、竹の採取場所から
こだわりがあるのが、O棟梁のやり方だそうです。
壁土を練って塗りこんでいきます。養生にも時間をかけます。

実は、この家はまだ完成していないのです。
平行して進められたモダン建築のS邸の方が優先され、先に完成しました。
私が実際に見た、伝統工法の大工さんが建てるモダン建築というのは、
これもなかなか見応えがありました。


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