小さな小さな生き物の話1
2016年3月7日
私たちが子どもの頃というか、今の方が厳しいのか、幼い子どもが土を触ると
「汚いから手を洗いなさい!」とよく言われました。
この汚さは、多分「ばい菌」と呼ばれる微生物が、手についているということを
意味していたように思います。もちろん、単に泥汚れということもありますが。
土の中には、さまざまな微生物が存在します。その中にはもちろん
病原菌も含まれますが、植物にとっては、微生物がいた方が利益があるようです。
というのか、微生物がいないような土では植物はよく育ちません。
微生物は、「有機質」と呼ばれるところに多くいます。
有機質とは他の生き物の「遺骸」です。微生物は有機質を最終的には
分解しながら生きています。「遺骸」と言うと、ちょっと不気味な感じですが、
例えば落ち葉も「遺骸」の一つです。実際に、私たちもいずれ「土に還る」
とはよく言われる話です。有機質の中で微生物が、生きていく際に、
分泌するものが植物にとって、体に良いものであったり、ときに植物を
厳しい環境から守るものであったりします。そのため、植物の方も、
微生物が根の周りに集まってくれるように、根から分泌物(餌?)を与えることが
あります。それでも土の中にもともとの微生物が少ないよりは、たくさんいた方が
植物にとっては有利です。
微生物のいる有機質は通常、堆肥という形で扱うこともあります。堆肥作りは例えば、
植物の残渣(茎や枝葉など)を細かく砕いたものに、何度も水や空気を入れながら
「発酵」させます。分解が始まるに従って嵩も減り、色も黒っぽい色に
なっていきます。中にはさまざまな微生物が存在しています。
作業でよく使う完熟堆肥のアップ
この有機質にどれほどの効果があるのか。
子供向け実験を以前したことがありました。
テーマは
「植物に必要な物は何でしょうか?
肥料でしょうか?」です。
実験の花壇は4種類。
①は、瓦礫を細かく砕いた砂利だけ
②は、残土と呼ばれる工事で排出された土だけ
③は、瓦礫の砂利に有機質を入れたもの
④は、残土に有機質を入れたもの。
さて、それぞれどんな風に育つのでしょうか?という花壇です。
まず、一番駄目なものと一番良いものは想像できます。
一番駄目なものは①砂利だけでできた花壇、一番良いものは、
④残土に有機質をいれたものですが。
悩ましいのは、有機質を入れた砂利と、土だけのものの二つです。
結果は見事に出ました。
土が無くても、③の砂利と有機質でしっかり植物は育っています。
逆に、②の残土と言って地下の深い有機質の少ない所の土の方が
砂利+有機質のものより今ひとつの生育でした。
私たちの植栽作業の中のスタートには、必ずこの有機質を
しっかり土に入れています。時に設計に入っていなくて、いきなり
真砂土に木を植えなくてはならないときもありますが。
植物が元気に育つには有機質は絶対条件です。
希少な経験の後
2011年8月18日
二度目の発表は、幅広い分野の前回とは随分様子が違いました。
地盤工学の専門の方たちの集まりです。しかも北海道でした。
当時、特許の取得が同時進行でした。知られていないことが値打ちの特許と、
たくさんの人に知らしめる学会はある意味矛盾しました。
発表の仕方で、特許が取れなくなる可能性がありました。
微妙な境界に不慣れな私は、不用意な発言でよく注意されました。
それぞれが企業で開発を経験していたD社のOさんとK専務は、
「それ(メカニズムの解明)は研究者の仕事。私たちは民間企業」が口癖で、
お二人は、そもそも、特許も、学会発表も
会社の利益、もしくは不利益を防ぐため、という位置づけでした。
発表の日が近づき、予め配布された発表要旨の中で、気になる内容がありました。
それは某大手ゼネコンの○○さんのものでしたが、やはり土木工事で発生する
高いアルカリ性の土を中性化するものでした。微生物には一切触れず、
ほとんど化学式のみで石灰分が、炭酸ガスによって、どのように
変化して高いアルカリ性を下げるのかをシュミレーションした内容でした。
当日。大きな会場で発表が終わり、いよいよ質疑応答というときに、
私の部会の座長が手を上げ、「Nさん(私)の発表と、○○さんとは同じじゃないですか?」
と言われました。当時特許を目指す私たちに『人と同じ』は禁句でした。
ドキドキしながら「少し違います」と応えました。
「どこが違うんですか?」と畳み掛けられ、微生物や植物を
生かしていることを訴えました。次に、その○○さんが私に、
「うちは・・土着菌の◎×▲★・・も▲★◎◎(すべて学名です)も
使っていますが、世間の人に受け入れてもらうのはなかなか・・
そのことについてNさんはどう思われますか?」と言われました。
その言い方が少し感情的に聞こえ、圧倒されて少しひるんでしまいました。
心の中で(やはり、名も無い土着菌の働きというのは通用しないのかな)と
思いながら、何とか応えなければと必死で「だから、一般の人にわかりやすいように、
実験資材や比較風景にも花を取り込んで・・・」と話しているうちに、
自分が『学会』という場にいることを思い出しました。
それで、思わず「・・・でも、それは科学の話ではありません。」と応えました。
というのは、データを出してそれを信じないと言われたら、後は、
その方の信条とか心情とか証明しにくい分野に踏み込んでしまいます。
質疑応答も私の発表も終わりました。
きちんと切り返せず(やはり場違いだった)と少し凹んで席に着くとき、
前の席の年配の男性と、通路の途中あたりで、私ぐらいの男性と目線が合いました。
二人がそれぞれにっこりと私に大きく頷いて下さいました。
私にはそれがとても嬉しかったです。
終了後、普段温厚なOさんが私の弱気応答にちょっと怒っていたことも、学会の後で、
見知らぬ人に「失礼な質問でしたね」と言われ、(あれは失礼だったのか・・)と
妙に感心したことも、今はぼんやりとした記憶です。
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その後、特許も取得できました。いろんな植栽(樹木も、草花も)で効果も出て、
無菌ボックスも、発酵器などもそのためにそろえました。
白衣こそ着ていませんでしたが、実験室にこもって、それらの機材で
データを収集していたのが「今月の花」のハナミズキさんです。
残念ながら実験は終了しました。リサイクル事業というのは、
社会と市民と企業にとって『利・サイクル』でなければ現実性の乏しいものです。
世の中の仕組みはそうなっていません。企業は利益を上げることが目的です。
月日が流れ、昨年の秋。D社でのゴミ拾いキャンペーンのおり、今でも、
エコリサイクル花壇と称して、H社長に土壌の再生を草花でアピールさせて
頂いているD社の横を送迎バスで通過したときに、一般の主婦の方々が、
「ここお花きれいでしょ。あのエコ・・・土って、私も欲しいわ」と
会話されていました。それがきっかけで、地元の方に寄せ植え講習会を
させていただくことになりました。
普段私のやっていることの延長です。でも、一味違うものとして、園芸の話に加えて
一般の主婦の方たちがあまり見聞きしない土木工事の話や排出土の再生化の話。
課題など。学会発表時のパワーポイントも一部使いながら説明しました。
意外に、食いついて下さいました。昔の私と同じように、異質な分野の話と、
自分の暮らしとのつながりをほんの少しでも感じて頂けたかなと思っています。
さて、今の私は普通の造園業者です。この数日は潅水工事のお手伝いでした。
植物の外側を刈り込む作業と違って、潅水ホースは地面に近いため
茂みにもぐって作業するため、ケムシ類の餌食になってしまいました。
これも希少(でもないか・・・)な経験でしょう。
過去のいろんなことが今とつながり、いずれ今のことも未来につながって。
無駄な経験などありませんが、かつての熱い日々を思い出した暑い夏でした。
盆から先は〜♪
2011年8月16日
お盆も終わりました。最近はお盆と言っても通常の生活と変わらずですが。
季節ならではの、お墓参り巡り?をしてきました。
「子供の頃、お墓参りはご先祖様に願い事をすることだと思っていた」という
次男が「きっと、オレがお願いするたびに、『それはオマエが努力せんかい!』
と言われていたのかな・・・」と社会人になって気づいたらしい発言をしていました。
できないと思ったことも、他力本願でなく、できるようになることもあります。
もちろん努力してもできないこともあります。
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論文はどちらかというと、前者でした。
たぶん、この私に、達筆な水茎の跡も麗しい字で手紙を書け
と言われたら一生無理だったかもしれません。
論文というのは、自分たちがやっていることを
同じようなことに関心を持つ人たちに、知らしめる一手段でした。
まずは、知らせる内容=中身があるということから始まりです。
『中身』は自分たちがやっていることだったので問題ありません。
『中身』に加えて、社会背景や、社会に与える影響なども必要でしたが、
H社長や、K先生とのやり取りの中でご指導を仰ぎながら、仕上げました。
考察は苦戦でした。データから読み取れることだけを書くことに不慣れで、
K専務に「そんなことはこの結果では分からない!」と叱られました。
H社長からD社のエンジニアのOさんをご紹介いただき、
よく知らない土木分野のことを教えて頂きました。
査読(審査)では、文言の定義づけ(独りよがりの言葉になっていないか)、
通じていない場合は、言い直しをチェックされました。
発表は10分間。質疑応答があります。あわただしく発表当日を迎えました。
初めて参加した学会発表は、案の定、他の方の内容が難しすぎて
さっぱり分からず、途中で場違いな自分は帰りたくなりました。
いよいよ自分の番が回ってきたとき。私は、『余裕』を持って、
名前を呼ばれる前に早めに準備物を持って立ち上がりました。
息を吸って数歩踏み出した途端、司会の方が私の『一つ前の』方の
名前を呼びました。フライングでした。
行きと違って戻る場合はみなの顔と向き合うので、数歩が長く
席に着くなり、隣のK専務に「どうして止めてくれなかったんですか」と
小声で訴えると、「何か用事があるのかと思って・・」と言われ、
(あるわけナイヤロ!)と思いながら、それが幸いして落ち着きました。
こじんまりとした会場で、発表も質疑応答もスムーズでした。
他の方の、数万㎥の土の『挙動』や数式が飛び交う合間に、
土の隙間の微生物の呼吸の話を草花の画像などで行いました。
変な例えで言うと、高等数学の参考書に、絵葉書が
挟まれているようなちょっとした違和感でした。