希少な経験の後


2011年8月18日

二度目の発表は、幅広い分野の前回とは随分様子が違いました。
地盤工学の専門の方たちの集まりです。しかも北海道でした。
当時、特許の取得が同時進行でした。知られていないことが値打ちの特許と、
たくさんの人に知らしめる学会はある意味矛盾しました。
発表の仕方で、特許が取れなくなる可能性がありました。
微妙な境界に不慣れな私は、不用意な発言でよく注意されました。
それぞれが企業で開発を経験していたD社のOさんとK専務は、
「それ(メカニズムの解明)は研究者の仕事。私たちは民間企業」が口癖で、
お二人は、そもそも、特許も、学会発表も
会社の利益、もしくは不利益を防ぐため、という位置づけでした。
発表の日が近づき、予め配布された発表要旨の中で、気になる内容がありました。
それは某大手ゼネコンの○○さんのものでしたが、やはり土木工事で発生する
高いアルカリ性の土を中性化するものでした。微生物には一切触れず、
ほとんど化学式のみで石灰分が、炭酸ガスによって、どのように
変化して高いアルカリ性を下げるのかをシュミレーションした内容でした。
当日。大きな会場で発表が終わり、いよいよ質疑応答というときに、
私の部会の座長が手を上げ、「Nさん(私)の発表と、○○さんとは同じじゃないですか?」
と言われました。当時特許を目指す私たちに『人と同じ』は禁句でした。
ドキドキしながら「少し違います」と応えました。
「どこが違うんですか?」と畳み掛けられ、微生物や植物を
生かしていることを訴えました。次に、その○○さんが私に、
「うちは・・土着菌の◎×▲★・・も▲★◎◎(すべて学名です)も
使っていますが、世間の人に受け入れてもらうのはなかなか・・
そのことについてNさんはどう思われますか?」と言われました。
その言い方が少し感情的に聞こえ、圧倒されて少しひるんでしまいました。
心の中で(やはり、名も無い土着菌の働きというのは通用しないのかな)と
思いながら、何とか応えなければと必死で「だから、一般の人にわかりやすいように、
実験資材や比較風景にも花を取り込んで・・・」と話しているうちに、
自分が『学会』という場にいることを思い出しました。
それで、思わず「・・・でも、それは科学の話ではありません。」と応えました。
というのは、データを出してそれを信じないと言われたら、後は、
その方の信条とか心情とか証明しにくい分野に踏み込んでしまいます。
質疑応答も私の発表も終わりました。
きちんと切り返せず(やはり場違いだった)と少し凹んで席に着くとき、
前の席の年配の男性と、通路の途中あたりで、私ぐらいの男性と目線が合いました。
二人がそれぞれにっこりと私に大きく頷いて下さいました。
私にはそれがとても嬉しかったです。
終了後、普段温厚なOさんが私の弱気応答にちょっと怒っていたことも、学会の後で、
見知らぬ人に「失礼な質問でしたね」と言われ、(あれは失礼だったのか・・)と
妙に感心したことも、今はぼんやりとした記憶です。
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その後、特許も取得できました。いろんな植栽(樹木も、草花も)で効果も出て、

改良前
改良後

製造法についての実験のために培地などで何度も実験をしました。
無菌ボックスも、発酵器などもそのためにそろえました。
白衣こそ着ていませんでしたが、実験室にこもって、それらの機材で
データを収集していたのが「今月の花」
のハナミズキさんです。
残念ながら実験は終了しました。リサイクル事業というのは、
社会と市民と企業にとって『利・サイクル』でなければ現実性の乏しいものです。
世の中の仕組みはそうなっていません。企業は利益を上げることが目的です。
月日が流れ、昨年の秋。D社でのゴミ拾いキャンペーンのおり、今でも、
エコリサイクル花壇と称して、H社長に土壌の再生を草花でアピールさせて
頂いているD社の横を送迎バスで通過したときに、一般の主婦の方々が、
「ここお花きれいでしょ。あのエコ・・・土って、私も欲しいわ」と
会話されていました。それがきっかけで、地元の方に寄せ植え講習会
させていただくことになりました。
普段私のやっていることの延長です。でも、一味違うものとして、園芸の話に加えて
一般の主婦の方たちがあまり見聞きしない土木工事の話や排出土の再生化の話。
課題など。学会発表時のパワーポイントも一部使いながら説明しました。
意外に、食いついて下さいました。昔の私と同じように、異質な分野の話と、
自分の暮らしとのつながりをほんの少しでも感じて頂けたかなと思っています。
さて、今の私は普通の造園業者です。この数日は潅水工事のお手伝いでした。
植物の外側を刈り込む作業と違って、潅水ホースは地面に近いため
茂みにもぐって作業するため、ケムシ類の餌食になってしまいました。
これも希少(でもないか・・・)な経験でしょう。
過去のいろんなことが今とつながり、いずれ今のことも未来につながって。
無駄な経験などありませんが、かつての熱い日々を思い出した暑い夏でした。

 


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