山の奥にも鹿ぞ鳴くなる・・・


2012年10月2日

表題の百人一首の上の句は、「世の中よ道こそなけれ思ひ入る・・」となります。
意味は、「世の中にあるつらいことから逃れる道はないのだ。
世を捨てて入ったこの山の奥でさえ、つらいことがあるのか、
鹿が悲しそうに鳴いている」
ホーッと深いため息さえ聞こえてきそうなちょっと暗い歌です。

私は子供の頃から百人一首のかるた取りが大好きで、
百人一首の歌の意味も分からず丸暗記していました。
一回り以上歳の離れた、叔父や叔母たちに手ほどきを受けました。
小さな子供と言えど容赦なく、私の18番(お気に入りの札)を取られて、
泣きべそをかきながらゲームに参加していました。
叔父や叔母たちは、上の句を読み始めた段階でもう、下の句の札を 取ってしまい、
時に、最初の一文字で決着する場合もありました。
叔母には「勝負の世界は厳しいのよ!」と言われ、自分も取れるように一生懸命覚えました。
おかげで随分きたえられました。もう50年近く前のことです。

大人になり、結婚前のお正月に振袖を来て、主人の実家に挨拶に伺ったことがありました。
亡くなった姑が桐の箱に入ったかるたを持ち出して百人一首をしようと言いました。
「ひとみちゃんもできる?」「ハイ・・少し」と慣れない着物姿の私はしとやか?に応えました。
始まったのですが・・・これまで私が経験してきたかるた取りと様子が違うのです。
というか多分これが普通なのでしょうが。
みなさんのんびりと、下の句まで聞いて、それからじっくりと探し始めるのです。
最初の方こそ、そのペースに合わせて、(あそこ!あそこにあるのに!)を
心に思いながらも『控えめ』に取っていた私ですが。だんだんストレスが
溜まってきました。ついに、我慢できずに、いつものペースで取り始めました。
ふと気が付くと、たくさんの視線が、邪魔になった振袖をたくし上げていた私に
注がれているのに気づきました。

それから何年か経ち。自分と同じように、百人一首を息子たちにも教えました。
覚えた札だけを一生懸命手元に置く長男から私は容赦なく札をかっさらい。
「勝負の世界は厳しいのよ!」と言っていました。
長男は、私と同じように涙をぬぐいながらも覚えていきました。
気短な次男にいたっては、取られると、悔しさの余り、並んだ札をぐちゃぐちゃにして
怒りました。かつて、次男の歯型(札にかみついたのですが)がついた札がありました。
もっともその次男が、後日一番強くなりました。
のちに、成長した息子たちから
「お母さん。百人一首って恋の歌とかきれいな歌やったんや。
味わう前に丸暗記して、なんか損した気分」と
言われましたが。

さて、表題のこの句。実は近頃の私の気持ちを連想させるものでした。
さすがに山にこもることはできません。
よくある話と言ってしまえばそれまでですが・・・
今抱えていることを笑い飛ばせる日までは、まだまだ時間がかかりそうです。
そのときは大いにネタにして自分の愚かさを笑ってみたいところです。
もっとも、うちの事務所のモットーは笑う門には福来るです。
ときに、笑ってる場合でないときにも、大声で笑いすぎて、
電話で接客中のK専務に叱られるほどですが。

とは言うものの、世の中よ・・・の歌がつい心の中にひびいてしまう今日この頃です。


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