ノコンギクとヨメナ(№498)

 晩夏から秋になると、あぜ道や山道のあちらこちらで野菊と呼ばれる数種類の小菊が花を咲かせます。中でも、関西で最もポピュラーで非常によく似たものにノコンギクとヨメナがあります。どちらもキク科シオン属の野草で種子と地下茎で繁殖します。
 ノコンギクは林縁や山道で普通に見られ、ヨメナは水田のあぜ道などやや湿った場所を好みノコンギクと比べて少ないようです。いずれの花もキク科の特徴を備え、中央部に黄色い筒状花、周囲に淡紫色の舌状花があり、直径1.5~2.5cm程度です。花期はノコンギクが8~11月、ヨメナは7~10月でヨメナの方がやや早く咲きます。花を見ただけでこの両者を見分けるのはむつかしいですが、ノコンギクは茎の上部でよく分枝し、ヨメナはあまり分枝しないため、ノコンギクは花が群がり、ヨメナは少なめ、花茎はノコンギクでは短くヨメナは長く(嫁ははなの下が長い)なります。
 確実に区別するには花弁を取り除くと、長い冠毛(ガクが変化したもので果実の上部に生じる毛)が見られるのはノコンギクで冠毛が目立たない(0.5mm程度)のがヨメナ(嫁に毛なし)です。この冠毛は果実ができてもノコンギクでは目立ち、ヨメナではほとんど見られません。
 ヨメナは春の新葉が山菜としてヨメナ飯、てんぷら、おひたしなどで好まれています。ただ、早春の新芽だけでヨメナとノコンギクを区別するのは非常に困難ですが、新葉に生える毛が多いのはノコンギク、毛がなくつるつるしているのがヨメナ(嫁はつるつる)です。しかしシオン属の新葉は他の種類も含め、ヨメナ同様に食用として利用できますので区別する必要はなく山菜ヨメナとして利用されています。
 ノコンギクは日本原産ですが、ヨメナは交雑種のようです。シオン属で一般に野菊と呼ばれるものにはこの2種以外にユウガギク、オオユウガギク、シロヨメナ、ヤマジノギク(アレノノギク)などがあり、分類はさらに複雑となります。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲ノコンギクの花
▲ヨメナの花
▲ノコンギクの花の冠毛
▲ヨメナの花
▲ノコンギク果実の冠毛

homeへ

イヌビワ(№497)

 イヌビワはクワ科イチジク属の落葉低木で樹高3~5mになります。雌雄異株でイチジクと同じく陰頭花序(果托がボールを形成し、その中で内側に向かって花が咲く=果嚢)をつけます。熟した雌株の果嚢が食べられる以外、これと言って利用価値のない樹木ですが、受粉プロセスが特異なため紹介しましょう。
 雌株の花は受粉し種子を作り秋には果実は熟して落果します。その後、葉も落とし越冬します。この花は虫媒花で花粉を媒介するのはイヌビワコバチですが、イヌビワコバチは雄株の果実中でゴール(虫癭、ムシコブ)を作り越冬しています。越冬したイヌビワコバチのオス(無翅)はメス(有翅)より早く羽化し、まだゴールの中にいるメスと交尾した後、果嚢の中で死んでしまいます。交尾を終えたメスは果嚢の中で咲きだした雄花の花粉を体につけ、果嚢から脱出します。この時、イヌビワの雄株、雌株どちらも新しい果嚢をつけており、イヌビワコバチはこの新しい果嚢を探し侵入します。雄株では果嚢内に短花柱花をつけており、イヌビワコバチは柱頭から産卵管を伸ばし子房に産卵します。産卵後イヌビワコバチ雌成虫は果嚢内で死亡し、産まれた卵は幼虫となり、ゴールとなった子房の中で育ちます。一方雌株では果嚢内に長花柱花しかなく、イヌビワコバチは産卵管が子房に届かず産卵できないまま果嚢内で死にます。しかし体につけてきた花粉は柱頭に受粉し果実は熟し胚は種子となります。
 つまりイヌビワの雄株はイヌビワコバチを育てるためだけに存在し、イヌビワの子孫を残すことには役に立ちません。雌株はイヌビワの種子生産だけを担い、イヌビワコバチの役には立ちません。このように個体単位で見るとタダ働きにも思えますが、種として考えると、どちらか一方が存在しなければもう一方も存在できない密接な関係にあります。このようなイヌビワとイヌビワコバチの関係も相利共生(絶対的相利共生)であると考えられています。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲秋のイヌビワ雄株
▲晩夏のイヌビワ 左:雌果嚢 右:雄果嚢
▲晩夏の雌果嚢内部 種子が見られる
▲冬季の雄果嚢内部 ゴールが見られる

homeへ

サンシュユ(№496)

 春4月、葉が出る前に黄色で花径4~5mm、花弁4枚、オシベ4本、メシベ1本の小花を一房に20~30花付ける落葉小高木があります。中国原産のミズキ科ミズキ目のサンシュユです。全体が黄色く見えるため、遠目にも目立ちます。秋にはグミに似た真っ赤な果実をつけます。春の花をハルコガネバナ、秋には真っ赤な実をつけるためアキサンゴとも呼ばれます。
 葉脈は中肋(主脈)から丸みを持った側脈が6~7対出ますがこれはミズキ科の特徴です。日本へは江戸中期に滋養強壮薬として、また花、果実、鹿の子模様に見える樹皮を観賞するために庭園樹として導入されました。果実は甘味があり果実酒、ジャム、シロップなどにも利用されます。
 名前のサンシュユは中国名の山茱萸を音読みしたものです。宮崎県の民謡ひえつきぶしでうたわれる「庭のさんしゅうの木…」の「さんしゅう」はこのサンシュユではなく山椒(サンショ)が訛ったものだそうです。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲サンシュユの花
▲サンシュユの花
▲サンシュユの果実

homeへ


ページトップへ