イノコズチ(№423)

 秋、山道や野原を歩くとズボンに沢山のひっつき虫がつくことがあります。色々な草の種子で衣類に付くことで、種子を拡散させようとする一つの戦術です。衣類にくっつくための手段には、先の曲がったカギをもつとか粘液を出すなどの工夫が見られますが一風変わった方法でくっつくものとしてイノコズチがあげられます。
 イノコズチはどこにでも見られる雑草でヒユ科イノコズチ属に分類され、変種としてヒナタイノコズチとヒカゲイノコズチに分けられます。この2種の大きな区別点はヒナタイノコズチは全体に毛が密生していますが、ヒカゲイノコズチは毛がまばらなことでしょう。どちらも植物の大きさは40~50cmで対生の葉を持ちます。葉の付く節はふくらみ、このふくらみをいのししの膝頭にたとえてイノコズチと命名されたそうです。別名をフシダカ、コマノヒザとも呼ばれます。
 さてこの果実の種子散布は主として動物の体にくっついて移動する方法をとります。動物の体にくっつくための工夫を見るため果実を拡大してみました。ひげを生やした小さな昆虫のような果実が見られます。このひげは2本ありますが苞葉とよばれ硬く、先は鋭利に尖っています。果実は長い果梗に多数が連続して出来ますが、これを下から指でしごくとチクチクと痛みを感じるほど鋭く尖っています。この苞葉が動物の毛や人の衣服に刺さりくっつくのですが、簡単に抜け落ちないように苞葉がクリップの形をしています。ボールペンなどのキャップをポケットに刺してとめるのと同じような構造です。
 雑草もそれなりの工夫を凝らしているのですね。
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▲イノコズチ
▲苞葉が布に絡んでいるイノコズチの果実
▲ペンキャップのクリップに似たイノコズチの苞葉(中央)

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オオヒシクイ(№422)

 秋から冬になると、酷寒の北国から日本に向かって寒さを避けるために渡り鳥がやってきます。その中に天然記念物に指定されているオオヒシクイがいます。
 オオヒシクイは9月下旬~10月にカムチャッカ半島周辺から日本海に沿ってほぼ2400kmを南下して来ます。日本では約5000羽が越冬しますが、琵琶湖がその南限で300~500羽が越冬します。ガンの仲間ですが大型(翅を広げると1.6m)で、全体に茶褐色、くちばしはオレンジ色をしています。夜行性で、夜間にヒシの実、マコモ、水田の落穂などを食べ、昼間は沖の中洲などで休んでいます。白鳥類に比べ非常に警戒心が強く容易に近寄ることが出来ない野鳥の一つです。
 名前の由来になっているヒシは浅瀬に生える1年生の水草で、根は湖底に固着していますが、長い茎を伸ばし葉は水面に浮いている浮葉性水草です。この果実を好んで食べるようですが、果実は菱形で4本の硬い棘を持っており、どのようにして食べるのでしょうか。昔、忍者はこれを投げビシとして使ったと言われるほど硬い棘です。
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▲沖の中州で休むコハクチョウやオオヒシクイの群れ
▲オオヒシクイ
▲波打ち際に打ち寄せられたヒシの果実
▲ヒシの果実

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コスモス(№421)

 秋を代表する花コスモスはキク科コスモス属のオオハルシャギク(一般的によく見るコスモス)、キバナコスモス、チョコレートコスモスの総称です。それぞれ多くの園芸品種が含まれますが、この花を観察してみたいと思います。
 コスモス(キク科)の花は頭花と呼ばれ、多数の花が集まって一つの花のようになっています。コスモスの場合、一つの頭花の周辺に花びらのように見える1枚1枚が一つの花で、舌状花と呼ばれ通常8個(枚)の花からなっています。コスモスでは舌状花には雌しべ、雄しべは無く花粉媒介昆虫を呼び寄せるるための広告塔の役をしています。舌状花に囲まれた中心部に見える黄色い部分は、筒状の多数の花の集まりで、それぞれの花は筒状花と呼ばれ、この花が受粉し種子を作ります。筒状花は目立たない5枚の花弁と、中央に雄しべが合体し筒状になったもの(集約雄蕊)があり、更にその筒の中に雌しべが隠れています。雄しべの先の葯に花粉が入っていますが花粉は雄しべの筒の内側に出されます。雌しべは筒の内側を伸びながら外へ出てきますが、その際、内側に出された花粉を押し出します。集約雄蕊から顔を出した雌しべは更に長く伸び、先端の柱頭が開き受粉可能な状態になります。雌しべが花粉を押し出しますが、その後更に伸びて柱頭が開くという時間差で自家受粉を避けているようです。
 キク科植物の花はこのように複雑な構造をしていますが、ハハコグサのように筒状花のみの花やタンポポのように舌状花のみ(この場合、基部に雄しべ、雌しべがあります)の花もあります。
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▲コスモスの花
▲大きく広がる舌状花(広告塔の役)
▲中央部の筒状花(右から、蕾ー開花ー花粉を押し出している状態ー柱頭が開いた状態)

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