ハグロハバチ(№303)

 最近の園芸植物には野草の突然変異種なども多く見られます。見慣れないカラーリーフでルメックスブラディドッグというのを見つけました。葉脈が紫赤色のかわいい植物で口に入れると蓚酸らしいすっぱ味が口の中に広がります。まるで雑草のギシギシのような味がします。これはタデ科ギシギシ属(Rumex)の植物で、この仲間にはハーブにも入れられているものもあるようです。
 新しく売り出される園芸品種には、詳細な栽培試験を経ず市場に出るものもあるようで、ルメックスの仲間の害虫については詳しく述べられた資料も乏しいようです。当社でも、試験的に導入し、育苗圃で管理しましたが、あっという間に害虫に食べられぼろぼろになってしまいました。この虫は何?と持ってこられた虫は腹脚の数が多く、ぐるぐる丸まっておりハバチの幼虫の特徴を示していました。調べてみると、ハグロハバチの幼虫で雑草のギシギシでよく発生する普通種という事がわかりました。雑草のギシギシやスイバで大発生しても、全く問題にされないため害虫の名前自体もあまり知られていませんが、ギシギシなどと同じタデ科の蕎麦(そば)では害虫として認識されているそうです。成虫は体長7~8mmの黒い蜂で、葉の中に卵を産みつけ、越冬は土中で蛹の状態で行います。
 新園芸品種については、学名からさかのぼり、どのような病害虫が発生する可能性があるかを事前に推察することも必要かもしれませんね。
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▲虫食い状態のルメックスブラディドッグ
▲ハグロハバチの幼虫
▲ハグロハバチ成虫

ナンバンギセル(№302)

 ナンバンギセルという変わった植物をご存知でしょうか。植物の特徴である葉緑素を持たないため自身で炭酸同化作用をすることが出来ず、他の植物に寄生している寄生植物です。
 寄生植物が寄生する相手の植物を寄主(植物)といいますが、ナンバンギセルはイネ科(ススキ、イネ、サトウキビ、タイワンオギ、ベニチガヤ)、ショウガ科(ミョウガ、ショウガ)やユリ科(ギボウシ、ユッカ、ホトトギス)などの植物を寄主としています。1年草ですので寄主植物を鉢栽培し、ナンバンギセルの種を播種すれば開花するかも、との思いからススキを鉢植えにし、秋口にナンバンギセルの種をまきました。その結果、8月に入って写真のように、ススキの鉢からナンバンギセルが数十本花を付けました。
 地上部に見えるのは花茎(花を付ける柄)で、茎と葉は地下にあるとのことで、土を掘ってみました。そうすると茎らしい部分と鱗片葉(退化し、鱗片のようになった葉)、数本の花茎の分岐が見られました。どの部分にも葉緑素の緑色は認められず、他の植物に寄生しなければ生きていけないことが良くわかります。 花の構造は丸い球状の雌しべの下に雄しべが4本。花糸(雄しべの柄)から蜜を分泌していることや花の構造から虫(動物)媒花と考えられますがどのような虫が媒介するのでしょうか。今のところ、我が家のナンバンギセルには種子が一つも付く気配がありません。
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▲ススキの鉢植えから出たナンバンギセル
▲ナンバンギセルの花(花弁とガクの一部を除去)
▲ナンバンギセルの茎と鱗片葉及び花茎(土中)

セミヤドリガ(№301)

  里山の杉林に近づくと、ヒグラシの声が聞こえる頃となりました。このヒグラシを手で捕まえたKさん、セミの腹に白い糸くずのようなものが付いているのを見つけました。 これは生態的に大変珍しい、セミに寄生するセミヤドリガと呼ばれる肉食蛾の幼虫です。
 セミ、特にヒグラシのメス成虫に好んで寄生します。卵は樹幹に産卵され、近くへ寄ってきたセミの成虫に孵化幼虫がとりつき、セミの体にくっついて寄生(外部寄生)するそうです。この幼虫の口は、噛んだり吸ったりできる構造ではないようで、どのようにしてセミの体液を吸っているのかも謎だそうです。セミの腹部に糸を張り、その糸を頼りに振り落とされることも無く動きまわっているようです。セミそのものの寿命は長くないため、セミヤドリガの成長も早く、寄生して2週間程度でセミの体を離れ、樹幹などに繭を作り蛹になります。成虫は、開翅長20mm程度の暗褐色の小蛾ですが、成虫は殆どがメスで、メスだけで増え続けている(処女生殖)ようです。また、この蛾の口は退化しており餌はとらないようで、セミに寄生している間の吸汁体液だけがこの蛾のすべてのエネルギーになるようです。また面白いことに、セミヤドリガの寄生でヒグラシが死ぬようなことも無いそうです。 比較的発生が多いにもかかわらず、謎に包まれた一生を送るセミヤドリガ、興味を持って観察を進めたいものです。ヒグラシ成虫の飼育そのものが難しく、Kさんの捕らえたヒグラシはまもなく死んでしまい、セミヤドリガも蛹にはなれませんでした。
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▲ヒグラシに寄生したセミヤドリガ幼虫(腹部の白いウジ状の幼虫)
▲腹部に寄生しているセミヤドリガ幼虫(腹側からみたもの)

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