サツマキジラミ(№297)

 5~6月の頃には、植物の新葉にキジラミがよくつきます。先月号ではトベラのキジラミを紹介しましたが、今月はサツマキジラミについて紹介します。
 体長1.7~2.3mmの小さなセミのような形をした昆虫で、冬を越した成虫や幼虫はシャリンバイの新葉の中肋(葉脈の中で中央の太い葉脈)上に陣取り、この中肋に口吻(針のようになった口)を刺し込んで樹液を吸汁しています。幼虫は白色糸状のものを分泌し、成幼虫共に甘露を排泄し、この甘露にすす病が発生し、葉を薄黒く汚します。植物の樹液は糖質が多く、微量しか含まれない栄養素を必要量摂取するには過剰な糖分を取ってしまうため、甘露として排出するようです。甘露を排出している成虫の写真を載せました。
 このサツマキジラミは梅雨の頃からシャリンバイを離れカラスザンショウに移動します。夏の間中、カラスザンショウで過ごしやがて秋になると再びシャリンバイに戻ってきます。このように、季節によって寄主(寄生する植物)を変えることを寄主転換といいます。
 もともと暖地性の害虫で、北海道、本州北部を除く、日本全国にいますが最近徐々に生息地を北上させている害虫の一つで、関東地方でも確認されているようです。
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▲シャリンバイの中肋に陣取ったサツマキジラミ
▲サツマキジラミ
▲甘露を出しているサツマキジラミ

カラスビシャク(№296)

 サトイモ科の植物の花は、ほとんどが筒状の仏炎苞と呼ばれる苞の中に納まっています。そして、受粉のため昆虫を閉じ込め殺してしまう構造を持ったりしています。ところが、これらサトイモ科の中でもハンゲ属のカラスビシャクは意外に穏健派といえそうな受粉様式をとります。
 花粉の媒介昆虫を閉じ込めるのは雌雄異株の仲間です。このことは既にマムシグサ(№.185 )で紹介しましたが、雄花の仏炎苞には花粉を付けた媒介昆虫の出口がありますが、雌花には媒介昆虫の出口が無く、仏炎苞の内部で死に絶えることになります。
 一方、カラスビシャクは雌雄同株で、仏炎苞の中の付属体(花が集合して付着している器官)の上部に雄花が、下部に雌花が集合しています。同一の花の中に雌花と雄花が存在しますが、自家受粉を避けるため雌性先熟(雌花が先に開花し、受粉完了後に雄花が開花する)の方法をとっています。また、訪花昆虫の仏炎苞への出入りは自由なようです。さらに、雌花の付いている付属体の背部は仏炎苞と癒合しているためこの部分で仏炎苞が細くなっています。
 このカラスビシャクの葉は、1本の葉柄に3小葉が付きますが若い株では1枚の場合もあります。葉柄の地際部や葉の基部に直径3~5mmの球をつけることがありますがこれはムカゴで、地上に落下し発芽します。種子以外にもムカゴでも繁殖するわけです。
 カラスビシャクは至る所に生えている雑草ですが、この塊茎(地下茎が球状になったもの)は半夏(ハンゲ)と呼ばれる生薬で、鎮吐作用があり漢方薬として利用されます。カラスビシャクが生える頃(7月2日頃)を半夏生(ハンゲショウ)と呼ぶのはこの雑草の開花時期からきているようです。また、畑の草引きをしながらカラスビシャクの塊茎を集め、これを売ることで小遣いを稼いだことから別名ヘソクリとも呼ばれるそうです。
 ハンゲショウ(№.120)と呼ばれる植物もありますが、これはカラスビシャクとは別物で、ハンゲショウの頃(7月2日頃)に開花するドクダミ科の仲間のことです。
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▲カラスビシャクの花(仏炎苞)と複葉(3小葉)
▲カラスビシャクの花(上:雄花、下:雌花)
▲カラスビシャクのムカゴと1枚の葉

クワカミキリ(№295)

 大型のカミキリを見つけました。大きさ、色、前翅基部の小黒点などの特徴からクワカミキリと同定しました。クワカミキリは名前のとおり桑の木を食害する害虫としてよく知られていますが、桑以外にイチジク、ビワ、ミカン、クルミなど果樹の害虫としてまた、ポプラ、ヤナギ、ケヤキ、カエデ、ニレ、ブナ、ドウダンツツジなどの樹木19科48種の害虫として知られています。最近、広葉樹の植栽が進められており、苗木植栽後の若木におけるクワカミキリによる被害が懸念されます。
 成虫は樹木の樹皮をかじり産卵しますが、幼虫は樹幹内部を穿孔しながら下降します。清潔好きの幼虫らしく、所々に小孔をあけ、木屑や糞を排出します。穴をあけられた樹木は枝枯れ、幹折れ、枯死などの被害を受けます。幼虫は2~4年後に成虫となります。
 甲虫の仲間でクワカミキリをはじめカブトムシの仲間は飛ぶときには、前翅を左右にひろげ飛行機の翼の役目をさせ、後翅を激しく震わせ飛行機のエンジン役をさせながら飛行します。この様子を写真に収めようと室内を締め切り、飛ぶのを待ちましたがなかなか飛びません。飛んでも写真に撮ることは難しくここに記載の写真が限界でした。カナブンの仲間は前翅はそのままの状態で、後翅だけを横に広げて飛ぶことはカナブン(№.192)に記載していますので参考にしてください。
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▲クワカミキリ成虫
▲クワカミキリの顔
▲クワカミキリの飛翔