まだまだ陽射しは暑いですが、ふと感じる風の心地よさは、もう秋です。
先日、宮崎駿さんの映画「風たちぬ」を見てきました。ご覧になった人はきっとそれぞれの思い出を重ねた事と思います。私も色んな記憶を蘇らせながら見てきました。
まず、大きな計算尺に、若い頃の父を思い浮かべました。 高原のなだらかな山々に風が吹くシーンでは、私の若い頃が蘇りました。白馬・美ヶ原・八方・上高地・・・・私は心の欠片を信州のあちこちに置き忘れていると思える程、高原の美しい光景を思うと懐かしさでいっぱいになります。 そして、ヒロインの療養生活。 実は、私は秋の風には、とても強い思い入れがあるのです。
9年前の秋、私は病院にいました。この病院は今でこそ新しく建て直されましたが、当時は老朽化した暗い建物でした。窓からは、ほんの少しの空しか見えず、別の病棟の古い壁が迫っていました。 季節は秋になっているはずなのに、全く外と遮断された世界に一ヶ月もいると、季節が私を置き去りにして過ぎ去ってしまうような、切ない気持ちになってしまいます。 何とかして外の風を感じたい私は、点滴スタンドをガラガラと引きずりながら、病院のあちこちを調べて回りました。増築を重ねた建物は、暗い廊下で繋がれて、迷路のようになっていました。 建物の外側は、道路に囲まれていて、車が頻繁に行き交います。 でも、ついに見つけました。別館との間にある小さな喫煙所です。狭くて、すぐ近くに建物が迫っていても、細く見えるのは、紛れもなく秋の空です。建物の間を抜けるひんやりとした風は、本物の秋の風です。小さな寄せ植えが飾ってありました。
月日は流れ、今の私は、窓を開けると、庭に出ると、簡単に秋の風を味わえます。でも、あの時の渇望感がまだ残っているのか、貪欲に秋の風を求めてしまいます。 泉北ニュータウンの、豊かな自然を吹き抜けてきた風は、心地良いです。ケヤキ並木を渡ってくる風。穂を出しかけた田んぼを渡ってくる風。まだ青い実をいっぱいつけた柿の木を渡ってくる風。様々な香りを含んだ秋の風を、今年も思い切り堪能したいと思います。 こうして元気に生かされている事に感謝しながら・・・・
風たちぬ。いざ、生きめやも。 映画を見たあとは、いっそう「生きねば。」と思います。
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