ハグロソウ(№555)

 6~10月、夏緑広葉樹林の日陰部分に濃緑色の葉をした、草丈20~50㎝の草が見られます。ところどころに大きな2枚の総苞の間から1㎝程度の小さな淡紫色の花がのぞいていますが全く目立ちません。
 ハグロソウと呼ばれシソ目キツネノマゴ科ハグロソウ属の多年草です。名前のいわれは、その葉色が濃いことからと言われています。総苞の中には数個の花が入っていますが、1日花を1個づつ咲かせます。比較的どこででもみられる花ですが長期間にわたってパラパラ咲き、朝開花、午後には散ってしまうこともありとても花とは思えません。花言葉も「規格外の」となっています。花弁は2枚で、2本の雄しべと1本のめしべが開いていますが、まるで昆虫による媒介など考えていないかのように下唇にぴったりくっついているように見えます。しかし、この上を踏みつけながらアリが走り回っているのを見てこのような構造もありかと納得しました。また、この種子はエライオソーム(アリが好む物質で種子ごとアリが巣へ運び込む)を持っていてアリが種子分散をします。
 さて2枚の花弁ですが、基部では筒状になっており、この筒の部分で90度ねじれ、基部で上(下)だった部分が先端では横に、基部で横だった部分が先端では上(下)に来ています。こうすることで、花弁中央基部の蜜標を目指して飛来した昆虫が、水平になった花弁上にスムーズに着陸できるようです
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▲ハグロソウ(花は目立たない)
▲ハグロソウの花(2花弁)
▲ハグロソウの花
▲花筒は90度ねじれている

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カシノナガキクイムシ(№554)

 最近、7,8月の広葉樹の雑木林で立ち枯れた木が目立つことがあります。この原因のほとんどがナラ枯れ(ブナ科樹木萎凋病)による立ち枯れと言われています。病原菌はナラ菌(ラファエレア菌)が樹体内で繁殖し水の吸い上げが阻害されて枯れるものです。
 それではこのナラ菌はどのようにして樹木内に侵入するのでしょうか。実はこの菌はカシノナガキクイムシと呼ばれる甲虫によって運ばれます。6~7月に新成虫はコナラ属を中心としたブナ科樹木に穿入し、集合フェロモンを出すことで特定の樹木に多数のカシノナガキクイムシが集中的に穿入します(マスアタックとよばれます)。しかしカシノナガキクイムシのエサは樹木ではなく樹木に繁殖した酵母菌類(アンブロシア菌類)と言われ、成虫雌は前胸背面にくぼみ(マイカンギア=菌嚢)を持ち、ここに菌類をため込んで運ぶと言われています。この際、エサとなる菌に加え、ナラ菌をも同時に運び込み樹木を枯死させることになります。ですから、カシノナガキクイムシで穴だらけになりながら、ナラ菌が持ち込まれず枯れずに生き延びることもあるようです。
 カシノナガキクイムシとナラ菌の関係はマツノマダラカミキリとザイセンチュウに似たところがありますね。
 カシノナガキクイムシは、昔から北海道を除いた日本全国に生息しており、ナラ枯れに適した大径木が増加してきたため被害が目立つようになったともいわれています。
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▲ナラ枯れで立枯れた樹木
▲キクイムシが出した木屑(フラス)(根にまで寄生する)
▲キクイムシ穿入口(ここからフラスを出す)
▲カシノナガキクイムシ雄成虫
▲カシノナガキクイムシ雌成虫(前胸背面に菌嚢=マイカンギア)

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ウツギ(№553)

 旧暦4月(卯月=新暦4・下~6・中)になると、日本全国の日当たりのよいやや湿った場所に、白く房状に枝垂れて咲く低木が目立つようになりますが、これがウツギです。茎の中央が空洞になっていることからウツギ(空木)と呼ばれ、この花が咲く旧暦4月を卯月と呼ぶようになったようです。
 葉は対生しますがその形には変化が多く、表裏両面に星状毛があります。樹高2.5m程度で株立ち(地際から多くの茎が立つ)の落葉樹です。非常に強健で、剪定にも強いため、生垣や庭木(独立樹としてはシロバナヤエウツギ、サラサウツギ、バリエガタなどの園芸種が使われます)としてよく利用されます。枝先に直径10~15mmの白い花を円錐花序としてまとめて付け垂下します。唱歌に「卯の花のにおう垣根に…」と歌われている卯の花はウツギの花ですが、歌のようには匂いません。また万葉集にも多く歌われ親しみ深い植物と言えるでしょう。
 夏には直径5mm程度で先端がくぼみ雌しべの花柱が残ったコマのような形をした果実をつけます。幹は堅く、木釘や爪楊枝に利用され、中空で軽いことから杖にも使われた
ようです。
 茎が中空の植物はウツギと呼ばれることが多く、アジサイ科、スイカズラ科、ドクウツギ科、フジウツギ科、ミツバウツギ科、バラ科などに〇〇ウツギという名前の植物が見られます。
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▲ウツギの花
▲ウツギの花
▲ウツギの茎(切断面)
▲ウツギの果実

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