トコジラミ(№450)

 今回は最近問題になっている衛生害虫を照会しましょう。
 国内には数社の旅行会社が、いろいろな格安ツアーを企画し売りに出していますが、同時に海外からも旅行者が日本へ大量にやってきます。植物は国内持ち込みに際し、厳しい検疫を受けます。しかし、人間やその荷物に潜む衛生害虫は野放し状態です。そのような中で最近問題になっているのがトコジラミ(ナンキンムシ)です。
 トコジラミはシラミと付いていますがシラミの仲間ではなくカメムシ目トコジラミ科に属しカメムシやセミの仲間です。成虫は体長4~5mmで肉眼でもはっきり見ることができ、カメムシ特有の嫌なにおいも出します。昆虫ですが成虫でも翅はありません。体は扁平で、成虫は赤褐色、幼虫は乳白色をしています。成虫、幼虫共に血液をエサとしていますがトコジラミとタイワントコジラミが人間の血液を吸汁します。明るいところが苦手で、昼間はほとんど動かず畳や壁の隙間に潜んでいますが、暗くなるとエサ(人)を求め活発に動き回ります。刺されると非常にかゆいそうです。また絶食状態で1年以上生きるとの記録もあるそうで、低温にも大変強く、兄弟間の交配(近親交配)でも増殖可能で一旦侵入すると防除は大変厄介な害虫です。
 第2次大戦後(1970年代)日本からは絶滅したと考えられ、その実物を知る人も稀となりました。しかし最近各地の観光地でスーパートコジラミと呼ばれる薬剤耐性トコジラミが増加し問題化しています。その原因には海外からの旅行者の増加が挙げられています。人間の体に付いて移動することは殆どないようですが、暗い環境、つまり荷物に紛れて侵入するようです。
 旅行好きの皆さんは十分ご注意ください
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▲トコジラミの卵(孵化直前)
▲トコジラミ成虫と1令幼虫
▲トコジラミの口吻(針のような口)

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ヨウシュヤマゴボウ(№449)

 ヨウシュヤマゴボウという名前を聞いたことがある方が多いと思いますが、写真を見ればよく見る草とわかるほど街中のどこにでもある草です。しかしヨウシュヤマゴボウは有毒植物で、紛らわしい名前の食用植物がほかにもあり、時々間違って中毒事故を起こしていますので注意が必要な植物です。
 ヨウシュヤマゴボウはヤマゴボウ科ヤマゴボウ属の植物で、草丈2m程度になります。6~9月頃花穂に白色の花をつけ、やがて下垂し、果実は黒く熟します。鳥はこの果実を食べ、糞とともに種子をばらまくため都会でもあちらこちらで目にすることができます。茎は紅紫色で、秋には葉が葉脈部を残して紅葉しよく目立ちます。果実はつぶすと、紅紫色のきれいな汁液を出し、衣服や手に付くとなかなか取れませんが、この色水を使って子どもが遊ぶこともあります。しかし、この植物は全草有毒で口にすると腹痛、嘔吐、下痢に続いて延髄に作用し痙攣を起こして死に至るもので非常に危険です。子供には触らせないようにするべきでしょう。
 同属在来種でヤマゴボウ、マルミノヤマゴボウというのがあります。どちらもヨウシュヤマゴボウ同様に有毒ですが、果穂が直立しており、ヤマゴボウの果実はいくつかに分球しています。いずれもあまり多くなくめったに目にすることはありません。
 他に紛らわしいものとして、野菜のゴボウと山菜としての「ヤマゴボウ漬け」があります。野菜のゴボウはキク科の植物で根や若葉を食用とします。「ヤマゴボウ漬け」の原料はキク科のモリアザミの根やゴボウの若い根を使います。ここでヨウシュヤマゴボウの名前が似ていることや若い根が食用のゴボウ、モリアザミの根と似ていることから間違って調理し中毒を起こすことがあります。
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▲コンクリートの隙間に育つヨウシュヤマゴボウ
▲ヨウシュヤマゴボウの花
▲ヨウシュヤマゴボウの果実

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トノサマバッタ(№448)

 久し振りに河原を歩いてみました。草丈の低い草原からはバッタがたくさん飛び出します。中でも非常に素早く、勢いよく飛翔し着地後はどこかに消えてしまうのはトノサマバッタです。バッタ目バッタ科の中でも大型のバッタでオスは35mm、メスは50mm程度あります。ダイミョウバッタとも呼ばれます。
 前翅には褐色のまだらの斑点があり、後翅には目立つ斑紋はありません。河川敷で丈の低いイネ科雑草が多いところに住み、主としてイネ科雑草を食べていますが時には他の昆虫を食べることもあります。トノサマバッタは生息密度が高密度になると、群生相(集団相)となり、翅が長く、後肢が短く、飛翔力が非常に強くなります。中央アジアやアフリカでは集団で移動しながら植物を食い尽くすことから非常に恐れられていますが日本では北海道や馬毛島での大発生例が知られています。通常のトノサマバッタは孤独相(単独相)と呼ばれ、日本では年2回の発生で卵で越冬しています。
 トノサマバッタを素手で捕まえると咬まれることがあります。またその糞を見ると裁断されたイネ科植物の硬い筋が見られます。どのような歯を持っているのでしょうか。左右1対の大顎を使って植物を噛み切りますが、この大顎を詳しく観察してみました。すると大顎の形は左右異なっており、人の犬歯にあたる部分は剪定ばさみの刃と同じ構造で切り刃と受け刃の1対からできており、その奥には人の臼歯にあたる臼状の部分が見られました。どの進化の過程で左右異なった器官となり、剪定ばさみ同様の刃を獲得したのか、非常に興味が持てます。
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▲トノサマバッタ(褐色型)
▲トノサマバッタ(緑色型)
▲トノサマバッタの糞(植物の筋が見える)
▲トノサマバッタの顔
▲トノサマバッタの大顎(解剖し内側から見た図、剪定ばさみ様の構造)

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