イロハモミジ(№363)

 新緑の4月中頃、モミジの仲間も開花します。
 透き通るような薄緑色のイロハモミジの新緑は、いかにも春らしく秋の紅葉に劣らず、見る人をすがすがしい気分にさせてくれます。このイロハモミジも直径5、6mmの小さな花を咲かせますが、新緑がわれわれの目や心を楽しませてくれるのと比べ、目立たず、地味な花といえるでしょう。しかし、この花を拡大してみると、美しい赤い花に驚くことでしょう。
 さて、この花をよく見ると、一つの木に2種類の花があることに気が付きます。ひとつは、非常に小さなヘリコプターの羽根のような翼を持った花です。この翼の基部に種子があり、秋になると翼も大きくなって羽をつけた種子が風に乗って散布されます。他のひとつは、このような翼が見られない花です。前者は種子が出来、写真で見ればわかるように葯は開いていませんが雄しべが見られますので両性花でしょう。翼を持たない花は、葯が開き花粉を出したことがわかります。花の中央部には雌しべ?の残骸のようなものが見られます。前者は雌花(両性花)、後者は雄花と見てよいようです。雌花(両性花)と雄花では雄花が断然多いようです。
 モミジの花には多くの甲虫が訪れますので虫媒花と考えられます。両性花の雄しべ(葯)は鮮やかな紅色をしていますが、花粉を持たない両性花が昆虫を呼ぶための工夫なのかもしれません。
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▲イロハモミジの花
▲両性花(中央に小さな翼が見える)
▲雄花

イスノキミタマバエ(№362)

 マンサク科イスノキ属の中に、常緑樹で高さ20mになる高木があります。イスノキといいますが葉や幹を見てもこれといった特徴も無く同定の難しい木ですが、同定する上で大きな特徴として葉、果実、枝にたくさんの虫こぶをつくることを挙げることが出来ます。
 虫こぶは虫嬰(チュウエイ)、またはゴールと呼ばれます。アブラムシやタマバエなどが寄生することで、植物側が反応して作る瘤を指します。寄生昆虫はその瘤の中で増殖、成長するもので、瘤の種類は、寄生する昆虫に特有のものとなります。イスノキには11種類の瘤が認められ、それぞれに特有の寄生昆虫が知られています。
 今回は果実に寄生するイスノキミコガタフシを紹介します。これはイスノキミタマバエという昆虫が果実に寄生して果実が正常に大きくならないものです。普通、イスノキ果実には2個の種子が入っており、熟すと果実の先が割れて開き、この種子が弾き飛ばされて空になります。しかし写真のイスノキには新しく出来た果実と、昨年出来た果実で種子を飛ばした形跡の無い(果実の先が閉じている)果実が共存しています。しかも、古い果実をよく見ると小さな穴から身を乗り出したような形で蛹の殻のような物が見られます。
 これはイスノキミタマバエが寄生し、種子を作れなかったイスノキの果実でイスノキミコガタフシと呼ばれます。寄生された果実には、タマバエが脱出したときの蛹殻が残っています。
 虫嬰を作る昆虫は通常の命名がされていますが虫嬰そのものにも独特の名前が付けられています。そのつけ方は比較的わかりやすく、「植物の名前」+「寄生部位」+「特徴」+「フシ」(虫嬰のこと)となります。今回の場合「イスノキ」+「実」+「小型」+「フシ」=イスノキミコガタフシというわけです。イスノキハタマフシ(ヤノイスアブラムシ)については本シリーズで紹介していますので参照ください。
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▲イスノキ
▲旧果実と新果実が共存
▲種子を放出した果実(先が二つに割れている)
▲果実からタマバエが脱出した蛹殻
▲5㎝ほどもある大きなゴール

コブシ(№361)

 4月初旬、まだ冬枯れの続く山を行くと、所々に枯れ木のような枝だけの木に白い花を咲かせた木々が目につきます。これはモクレン科のコブシまたはタムシバです。
 遠く離れているとどちらの木か見当をつけるのはむつかしいですが、三角錐の樹形はタムシバ、横に広がった樹形のものはコブシが多いようです。
 近くで花を詳細に観察すると、コブシは花の下に1枚の小さな葉をつけていますがタムシバにはそのような葉は見られませんし、タムシバの方が花弁が細く、嚙んでみると甘みを感じることができます。「噛んでみる」が「嚙む柴」となり「タムシバ」となったといわれています。
 他にコブシの仲間でシデコブシと呼ばれるものも自生しますが、シデコブシの花は花弁が12~18枚で薄い桃色をしています。シデコブシは愛知県、岐阜県、三重県の一部地域でのみ自生が確認されています。
 住宅地ではコブシやタムシバより少し早い時期にハクモクレンが咲きますが、これは中国原産の庭木で花は大型で上を向いて咲き、花被(花弁と萼片の区別ができない場合両者をまとめて花被といいます)が9枚で花弁6枚のコブシやタムシバと区別できます。また、花被外側が紫のモクレン(シモクレン)も住宅地で見られ、これらモクレンの仲間の一番最後に開花します。シモクレンも中国原産の庭木です。
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▲山腹に咲く白い花
▲コブシ(花の下に葉が1枚)
▲タムシバ

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