テングチョウ(№352)

 天気の良い冬の日、陽気に誘われたように一匹のチョウが飛び出しました。全体に茶褐色に見える中型のチョウです。これは、成虫で越冬しているテングチョウです。テングチョウはチョウ目タテハチョウ科テングチョウ亜科のチョウで、両眼の真ん中が前方に飛び出しテングの鼻のように見えるところから名づけられました。このハナは他のチョウにもありますが、もっと短く目立たない存在で下唇髭(カシンシ=パルピ)と呼ばれ、テングチョウでは特異的に長くなっています。
 テングチョウは6~7月と9~11月の年2回発生し、盛夏期には夏眠します。成虫で越冬し、幼虫はエノキの葉を食害し、時には大発生することがあります。前翅長(前翅の基部から先端までの長さ、参考:開長=翅を広げた標本で、左右の前翅の先端から先端の長さ)19~29mmの大きさで、エノキを食べるため都会の中でも見られることがあります。エノキの新芽の間に産卵します。成虫は地上に降り、集団で給水していることもあります。
(*画像をクリックすると拡大されます)

▲テングチョウ成虫(裏面)
▲テングチョウ成虫(表面)

リョウブ(№353)

 落葉樹は冬期間葉を落とすため、幹と枝しか残りません。しかし、この時期にしか見られないものもあります。その一つに冬芽があります。冬芽は冬の寒さを乗り切るためにいろいろな工夫をしています。冬芽を覆うように芽の上にかぶさっているものを芽鱗といいます。また、このような形で冬芽を保護している芽を鱗芽と呼びますが、通常暖かくなると同時にこの芽鱗は剥がれ落ちます。しかし、厳寒期の1月にこの芽鱗を脱いでしまう樹木があります。それは、リョウブです。しかも、芽鱗を脱ぐ際、頂部から剥がれ落ちるのではなく、基部からめくれ上がるような形(傘を開くような形)で剥げ落ちます。芽鱗が落ちた後の冬芽はまるで裸芽(防寒対策の無い冬芽)のような状態で、その後数ヶ月間、寒風にさらされることになります。
 芽鱗の写真を撮っていると、葉痕(葉が落葉した跡)が目に付きました。葉痕には維管束痕(葉と幹をつなぐ養水分の通路である維管束の跡)が見られますが2~3個の維管束痕がサルやヒツジの顔に見えるものが多い中、リョウブには1個の維管束痕しか見えません。
 そのほかに、樹皮が剥がれ落ち幹が鹿の子模様に見えたり、短枝の根元から長枝が伸びる(仮軸分枝)ため、枝の形が鹿の角のように見えるなど枝と幹だけの時期にも、それぞれの樹種ごとの特徴を見ることが出来ます。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲芽鱗を脱ぎつつあるリョウブの冬芽
▲芽鱗を脱ぎ裸芽のように見える冬芽
▲維管束痕は1個
▲幹の皮が剥げ鹿の子模様に見える
▲鹿の角のように見える枝(仮軸分枝)

ムラサキツバメ(№354)

 翅を広げると、表側が紫色に輝き、後翅の端に尾状突起(しっぽ)が付いているきれいなシジミチョウがいます。チョウ目シジミチョウ科のムラサキツバメです。このチョウは、もともと南方系のチョウで、日本では関西以南の常緑広葉樹林に生息しているチョウです。翅を広げたときの開長は3.6~4cmで、前翅の内側(表側)は紫色ですが、その裏側は褐色で斑紋があります。マテバシイやシリブカガシを食草とし、冬は成虫で集団越冬しています。幼虫は、アリの好む液体を出し、トビイロケアリなどが幼虫と共生しているようです。
 関西地方では堺市の一部でその発生が見られていましたが、最近、京都、大阪、奈良市内でも発生が確認され、温暖化の影響とか、マテバシイやシリブカガシが街路樹や庭木として関東方面まで植えられるようになったためとか言われています。関東地方の一部で、成虫が越冬しているようでほぼ定着しているように思われています。
(*画像をクリックすると拡大されます)
◀ムラサキツバメ成虫

ページトップへ