ハイイロチョッキリ(№312)

 紅葉のシーズンになりましたが、万葉時代の紅葉はコナラやクヌギで実際には黄葉だったようです。時代とともに人間の感受性も変わり、現代ではもみじの紅葉が主流になりつつあります。12月ともなると、黄葉で大阪南部の山々も褐色になってきましたが、コナラの黄葉も多く見られます。
 コナラはミズナラとよく似ていますが、コナラは太平洋側の内陸部、ミズナラは日本海側の内陸高山に分布し、コナラは葉柄が長く、葉裏には星状毛(顕微鏡で見ると星型に見える細毛)が多いため白っぽく見え、樹幹にはコテで撫でたような縦筋が見られます。
 9~10月、コナラの林を歩くと、まだ未熟で青い果実(どんぐり)が3,4枚の葉をつけた枝ごと落ちているのが見られます。このような落ち方をしているどんぐりの大部分には殻斗(帽子)の部分かそのすぐ上の果実付近に小さな黒点が見られます。この黒点はハイイロチョッキリと呼ばれるチョッキリゾウムシが産卵した跡(産卵痕)です。ハイイロチョッキリは体長7~9mmのチョッキリゾウムシ科の昆虫でコナラ、クヌギ、ミズナラ、カシワ、シラカシ、アラカシなどのどんぐりに穴をあけ1個の卵を産卵します。その後、産卵したどんぐりと葉を3,4枚付けた枝を地上に切り落としてしまいます。これは、産卵されたコナラがタンニンを分泌し、ハイイロチョッキリの卵や幼虫を殺してしまう作用(生体防御機構)を防ぐためといわれています。その他にも、温湿度の調節のため、寄生昆虫による産卵回避のため、ハイイロチョッキリの多重産卵防止などのために枝を切り落とすとの説もあります。いずれにしろ、地上に落とされたどんぐりの中でハイイロチョッキリの幼虫は成長し、秋にどんぐりから出て土中に入り翌春に蛹化、羽化します。
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▲コナラの林
▲切り落とされた枝先
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▲ハイイロチョッキリの産卵痕
▲どんぐりの中に産れた卵

キバナコスモス(№311)

 晩秋、11月も中頃になると路地の花も少なくなり、黄色い花を咲かせているコスモスが目立つようになります。これはキク科コスモス属のキバナコスモスで、ピンクやシロの花を咲かせるコスモス(オオハルシャギク)とは同属別種で、交雑もしません。キバナコスモスのほうが頑健で繁殖力も旺盛なため花壇から逃げ出して、路傍で秋遅くまで咲いていることがあります。
 キバナコスモスの花は、周囲に花びらがあり、中央に雌しべと雄しべがあるように見えますが、実は周囲の花びらのように見えるものもその1枚ずつが花で舌状花と呼ばれます。キバナコスモスでは舌状花の雌しべ、雄しべはほとんど退化しており、昆虫を呼び寄せるための広告塔の役目をしているのでしょう。中央の固まりは花弁が退化し雌しべと雄しべが筒状になった花の集まりで筒状花と呼ばれ受粉して種子をつける花です。キク科の花には、このように筒状花と舌状花が見られますが、すべての花が筒状花のみ(アザミなど)、舌状花のみ(タンポポなど)の花も見られます。
 キク科の筒状花の雄しべは通常5本がまとまって筒のようになり(葯筒)、その筒の中に1本の雌しべがあります。雄しべの葯(花粉袋)は葯筒の内側に開き花粉を出します。花粉は雌しべの柱頭が上に伸びるとき外へ押し出されます。このときの雌しべの柱頭は未熟で、開いていないため、殆ど自家受粉をしないようです。花粉を押し出す役目を終えためしべは柱頭を開き受粉の準備を整えます。
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キバナコスモス2
▲キバナコスモスの花
▲キバナコスモスの筒状花

ハマオモトヨトウ(№310)

 当社ナーセリーのタマスダレに見慣れないヤガの幼虫が発生しました。早速調べてみたところ、一部府県では絶滅危惧種に指定されているハマオモトヨトウの幼虫でした。
 ハマオモトヨトウの成虫は、前翅長16mm~18mm(開翅長35mm~44mm)で前翅は地味な黒褐色、明るい腎状紋(ソラ豆型の紋)をもった中型の蛾です。元々暖地の海岸性害虫で、卵は卵塊で産まれ、若令期には葉や茎に潜り込んで食害します。ハマオモト(ハマユウ)、インドハマユウ、ヒガンバナ、タマスダレ、アマリリス、キツネノカミソリなどヒガンバナ科植物の花、葉、茎を食害することが知られています。越冬は、蛹(または幼虫)と考えられています。
 2000年ごろから増加し、生息域を北上させているようです。千葉県では絶滅危惧種D類、兵庫県ではC類に分類されていますが、花卉園芸上では害虫であり絶滅すればいいのにという人もいるようです。
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▲タマスダレに発生したハマオモトヨトウ幼虫
▲タマスダレに発生したハマオモトヨトウ

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