チヂミザサ(№274)

  秋の山道を歩くと、ズボンに草の種子がべったりとつくことがあります。いろいろな種子がつきますが、中に、種子を取ろうとすると手がべたべたするものがあります。これはチヂミザサと呼ばれるイネ科チヂミザサ属のチヂミザサの果実であることが多いようです。
 チヂミザサの葉は長さ3~7cmの笹に似た形をしています。葉の縁が縮れたように波打っており、地面を這うように広がります。晩夏から秋には茎が30cm程度立ち上がり、先に地味で小さな花を穂状に付けます。それぞれの小花は3本の紫色の毛(芒・ボウ)を持ち、この毛が粘液を出し、動物に付着して種子の散布を試みるものです。
 動物を利用して種子散布を計る植物はいくつもあり、その方法は、果実と共に食べさせて運ばせるもの、果実に棘を付け引っかかることで運ばせるものが主で、粘液を出して動物にくっつくことで運ばせる例は、メナモミ、オオバコなど少数派に属します。
 この粘液は非水溶性らしく水洗いでは完全に落ちない厄介者です。ズボンに付いた果実をとるのに「軍手をはめてこすればいい」と教えられやってみました。ズボンの果実は取れましたが、軍手に付いた果実がなかなか取れません。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲ズボンにくっついた果実
▲チヂミザサ
▲葉縁が縮れている
▲果実の毛が粘液で光っている

シモフリスズメ(№275)

 10月、シマトネリコの木に体長70~90mmの大きないも虫がついていました。しきりに葉を食べています。シモフリスズメの幼虫のようです。間もなく土中に潜り、蛹で来春まで冬を越すことになります。
 5月頃から羽化し、年2回の発生です。幼虫は全体に淡緑色で、体の側面に顕著な白色で斜めの筋が7本入っています。また、尾端近くにはスズメガ幼虫の特徴である尾角(しっぽにある角)が見られます。食草は、ゴマ、クサギ、ハマゴウ、ムラサキシキブ、キリ、モクセイ、ネズミモチ、イボタノキ、ハシドイ、ヒイラギ、オリーブ、シソ、ノウゼンカズラ、ガマズミなど多種類におよび、庭木の害虫でもあります。
 ところでいも虫と呼ばれるこれらの幼虫は、頭部に大きな目玉模様がありますが、これは「眼」ではなく眼状紋と呼ばれる模様です。いかにも大きな「眼」をした虫に見えますね。では、頭の部分に見える「眼」のようなものはなにでしょうか。よく見ると毛も生えています。ここには、あごを動かす筋肉が詰まっていて「眼」ではありません。本当の「眼」は、左右に3個ずつの個眼と呼ばれる「眼」があるのみで昆虫の成虫が持っている複眼はいもむしにはありません。
 いも虫の脚も面白いですね。脚は体の前方部分に3対(胸脚・歩脚)、後半に腹脚(疣脚・イボアシ)が4対、最後の部分に尾脚が1対あります。
(*画像をクリックすると拡大されます)

◀シモフリスズメ幼虫

アベリア(№276)

 街路の生垣に多数使われている低木にアベリア(ハナゾノツクバネウツギ)があります。アベリアというのは、スイカズラ科ツクバネウツギ属の総称(Abelia)で、国内で街路や公園、ビルの外構植栽に使われているのは、殆どが中国原産の交雑種で大正時代に渡来したハナゾノツクバネウツギ(ハナツクバネウツギ)と呼ばれるものです。しかし、一般には単にアベリアといえば白い花のハナゾノツクバネウツギを指します。他に、ピンクの花や斑入り葉の品種も見られます。日本には自生種としてツクバネウツギがありますが、これは花弁内側に網状紋が見られます。
 春から秋にかけ、非常に香りの強い白い花(長さ直径とも約2cm)を付けます。セセリチョウやスズメガの仲間がたくさんやってきて吸蜜しています。花後、花弁は落下しますが、3~5枚の赤褐色のガクが残り、これがツクバネの形に似ているところからハナゾノツクバネウツギと呼ばれるそうです。ところで多数の花が咲くにもかかわらず、結実しません。といわれていますが、写真を撮るためによく見ると、ガクの下の子房部が異常に太いものが見つかりました。これを割ってみると中から種子のようなものが出てきました。非常に低い確率ですが、結実するものもあるのではないでしょうか。
 植物の葉は、茎につく付き方が種毎に決まっており、同定のポイントになっていますが、ハナゾノツクバネウツギの葉では基本的には対生(葉が向かい合って2枚ずつ出る)ですが、徒長枝には3輪生(葉が3枚ずつ出る)の葉が見られることがあります。
(*画像をクリックすると拡大されます)

▲アベリアの花
▲左:アベリア3輪生の葉  右:アベリアの葉は通常対生
▲左:子房の膨らんだ花  右:大多数の不稔と思われる花
▲左の花から種子?らしいものが。

ページトップへ