うららかな春になりました。何気ない近所の景色も、急に魅力的なものになり、心が浮き立ちきます。
近所の学校に続く桜並木は入学式の頃、花のトンネルのようになります。やや緊張した初々しい新入生達と、満開の桜は本当によく似合っています。
私の実家にも桜の木がありました。入学や進級の折には、よくこの木の下で写真を撮ったものでした。私が学生の頃にはひょろっとした若木だったのに、もう幹がずっしりと太く貫禄ある姿になっていて、今では近所の人たちがここで写真を撮ります。
しかし、木が立派になるにつれて、両親は老いてきました。戦後の高度成長を支えてきた世代です。ずっと弱音もはかずに、黙々と頑張ってきましたが、最近はそうもいかなくなってきたようです。父からのメールの行間に、うっすらと気弱な物が滲み出してきました。
先日思い切って、世間話のついでに、プライドを傷つけないようにそっと、父にとって何が負担かを探ってみました。今はネットスーパーもあるし、便利な電化製品も色々あります。解決方法はたくさんありそうです。
「一番大変なのは何?買い物?布団干し?料理?」と聞くと、思いもかけない答えが返ってきました。
庭の水遣りだそうです。
確かにそうです。実家は元々変形の土地で、そこにあまり計画を立てないままに多くの木を植えて、さらに増築をしたものですから、庭がとても窮屈なものになっています。狭い隙間をすり抜けて、木の枝にチクチクと刺されながら、蚊に刺されながらの水遣りはとても大変です。
私も子どもの頃、夏休みの夕方に、この水遣りをさせられるのが、とても苦痛だったことを思い出しました。年老いてきた父にとって、木が大きくなっていっそう窮屈になった庭の水遣りは、とても苦痛だった事でしょう。
でも、この問題の解決は簡単です。
自動潅水をつけることになりました。もう父の夏の苦行はなくなる事でしょう。
親が年を取るにつれて、子どもとしてはどうふるまうかが難しいところです。
でも、とりあえずしばらくの間は、親に負担なく庭を楽しんで貰えます。 ユキヤナギ・桜に始まり、ツツジ・ハナミズキなど多くの木が、華やかに庭を彩ってくれることでしょう。何かあったらその時に思い煩うことにして、今はただ、みんなで春の美しさを愛でることに専念しますね。 |