イヌビワ(№497)

 イヌビワはクワ科イチジク属の落葉低木で樹高3~5mになります。雌雄異株でイチジクと同じく陰頭花序(果托がボールを形成し、その中で内側に向かって花が咲く=果嚢)をつけます。熟した雌株の果嚢が食べられる以外、これと言って利用価値のない樹木ですが、受粉プロセスが特異なため紹介しましょう。
 雌株の花は受粉し種子を作り秋には果実は熟して落果します。その後、葉も落とし越冬します。この花は虫媒花で花粉を媒介するのはイヌビワコバチですが、イヌビワコバチは雄株の果実中でゴール(虫癭、ムシコブ)を作り越冬しています。越冬したイヌビワコバチのオス(無翅)はメス(有翅)より早く羽化し、まだゴールの中にいるメスと交尾した後、果嚢の中で死んでしまいます。交尾を終えたメスは果嚢の中で咲きだした雄花の花粉を体につけ、果嚢から脱出します。この時、イヌビワの雄株、雌株どちらも新しい果嚢をつけており、イヌビワコバチはこの新しい果嚢を探し侵入します。雄株では果嚢内に短花柱花をつけており、イヌビワコバチは柱頭から産卵管を伸ばし子房に産卵します。産卵後イヌビワコバチ雌成虫は果嚢内で死亡し、産まれた卵は幼虫となり、ゴールとなった子房の中で育ちます。一方雌株では果嚢内に長花柱花しかなく、イヌビワコバチは産卵管が子房に届かず産卵できないまま果嚢内で死にます。しかし体につけてきた花粉は柱頭に受粉し果実は熟し胚は種子となります。
 つまりイヌビワの雄株はイヌビワコバチを育てるためだけに存在し、イヌビワの子孫を残すことには役に立ちません。雌株はイヌビワの種子生産だけを担い、イヌビワコバチの役には立ちません。このように個体単位で見るとタダ働きにも思えますが、種として考えると、どちらか一方が存在しなければもう一方も存在できない密接な関係にあります。このようなイヌビワとイヌビワコバチの関係も相利共生(絶対的相利共生)であると考えられています。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲秋のイヌビワ雄株
▲晩夏のイヌビワ 左:雌果嚢 右:雄果嚢
▲晩夏の雌果嚢内部 種子が見られる
▲冬季の雄果嚢内部 ゴールが見られる

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